ユキヤと呼ばれる不良は、未礼の隣の座席の机の上に腰を掛けた。

体の正面を窓に向けるかたちで、つまり私側を向いて。

そして相変わらず仏頂面の遠慮ない目で私を見下ろしている。

これが普通というのならなんと不愉快な顔立ちなのだろう。


優等生は、不良の前の席(未礼の右斜め前)の椅子を引き、彼もまた私に体を向けて座ると律儀に紹介を始めた。

「自己紹介がまだだったね。
僕は九地梨 鈴吾(クチナシ リンゴ)。
さっき君と話してたこの赤毛の男は、桧周 友基也(ヒマワリ ユキヤ)。
君の前に座ってる金髪の姐さんが、釈屋久 理沙(シャクヤク リサ)。
僕らは未礼の友達なんだ。よろしくね」

「……友達?」
未礼と?

我が学院は少々格式ばったところがあり、比較的真面目な外見をした生徒が多く通う学校だった。

今時の高校生ならば、染髪、化粧、着衣を着崩すなど特に珍しくもないのだろうが、不良といっても過言ではない外見の桧周と釈屋久という二人は明らかに周囲から浮き上がっていた。

その不良たちと親しい優等生風の九地梨。

彼らはどういう人間関係なのだろうか…。

お嬢様の未礼がこの中で上手くやっているというのか…。


不審にも似た面持ちで九地梨を眺めると、彼はわかっていることを確かめるような口調で私に自己紹介を求めた。

「もしかして君は…」

「-失礼。私は松園寺啓志郎という」

九地梨と桧周が顔を見合す。
釈屋久が黒目だけスライドさせて私をとらえる。

「まじかよ!松園寺って!どーりで学部長がペコペコしてるわけだぜ」

「松園寺家かぁ。うちの学校のオーナーでもあるもんね」

桧周と九地梨が続けて口を開く。

「さすが天下の松葉グループの坊ちゃんってだけあって、かしこそうなツラしてやがんな」

「そりゃそうさ。上品に決まってるだろう?君と違って」

「うるせーよ!てめェはいつもひと言多いんだよ!
っつーか、そんな坊ちゃんが未礼に何の用だよ。
…未礼の奴何かやっちまったのか?」

桧周が眉をひそめて九地梨を見ると、
「まさか」
九地梨は困惑の混じった笑みを返した。

どうやら未礼は見合いの話は友人たちにはしていないようだ。


「…あれぇ??啓志郎君??」