私はあごを持ち上げて、その横柄な不良を見上げた。

「貴様、何者だ。無礼な」

「は?何っておま…」

「ユキヤ」

不良がいっそう眉根を寄せて発した声に、誰かの声がかぶさった。

教室からもう一人、男子生徒が出てきて、私と不良のもとに歩み寄ってきたのだ。


お手本のように正しく制服を着た、いかにも優等生風の男。

ストレートの黒髪に、細いシルバーフレームの眼鏡をかけている。

涼しげな奥二重、アクのないすっきりとした顔立ちは、怜悧そうで品がある。

誰にでも好印象を与えそうなタイプで、不良とはまるで正反対の外見だった。

「ユキヤ、何してるんだ?小学生イジメちゃ駄目じゃないか」

優等生が、不良に話しかける。ユキヤというのはどうやらこの不良の名前らしい。

「 はぁ?!バカ言ってんな、イジメてなんかねェよ!! 」

「因縁つけてカラんでるようにしか見えなかったよ」

いら立つ不良に対し、優等生は沈着に返す。

「なんでガキなんかにカラむんだよ!こっちは親切心で声かけてやってんのに、無礼だとか言いやがって、このガキが …」

納得いかないと言わんばかりに、あろうことか不良は私を指差した。


「…その態度で親切だと?」

言い返しながら私は自分の眉間に力がこもるのがわかった。

すると優等生はフォローするかのように、私と不良の間に立った。

「ほら、すぐカッカしない。
ただでさえ悪人顔なんだから、人と話すときは限界まで優しい顔をつくるようにっていつも言ってるだろ」

優等生は、落ち着いた様子で手の甲で不良の胸板を軽く叩いてあしらう。

そして腰と膝をかがめ姿勢を低くして、友好的な笑顔で私に接した。

「すまないね。気を悪くしないで。
この男元々こういう顔のつくりなんだ」

「こーゆーつくりってなんだよ!!」

不良の反論を相手にせず、優等生は淡々と笑顔で続ける。

「よく言えば強面、そう言わなければただの凶相。
顔も態度もこれで本人普通に接しているつもりなんだよ。
怒ってる訳でも不機嫌でもなくて。
…まぁ、礼儀がなってないのが一番悪いんだけどね…。勘弁してやって」