「やけになるなど、らしくないではないか」


慰めるのが正解か、励ますべきなのか、言うべき言葉もまとまらないまま、私は話しかけた。


「勝つことだけが、すべてではないはずだ。
不調であっても、今、出来ることを精一杯すればそれで良いではないか」



「キレイごとだね」

ジャンは淡々とした表情で言いきった。



その通りだと思った。

言いながら、ていのいい綺麗ごとを言っている自覚はあった。

私は再び押し黙ってしまった。



「キレイごとを言うなんてキミらしくないよ。
試合は勝負だ。勝たなきゃ無意味サ」


ジャンの瞳に力強い光が宿っている。

おだやかな口調だったが、言葉尻に鋭さが響く。

スケートに対する情熱や戦意を完全に失ったわけではないようだ。


私は、ひとまず安堵し、意を決した。


そして、ジャンの手首をつかみ、立ち上がった。

勢いにつられて、ジャンも立ち上がる。


「試合に行くぞ!」


「・・・え・・・?」

私の勢いに、ジャンは大きく戸惑った。


「今ならまだ間に合う!
逃げたら、もう戻れなくなる。それでも良いのか?」


「・・・っ・・・でもっ・・・」

弱気な顔でジャンは、うつむいた。



「不調のときこそ真価が問われる。そう、私は思う。
確かにキレイごとを言っていることは承知している。
だが、ジャン、お前にはこの試練を乗り越える力はあるはずだ」



私には、わかっている。


ジャンが、どれだけ努力しているか。
何年もつきまとわれて、嫌というほどわかっている。


ジャンは、いつも何に対しても手を抜かず、100%本気で取り組む奴だということを。

勉強も、運動も、委員の仕事も、習い事も、趣味も、全てにおいて。
友に対しても。


まったく、しぶとく、何度突き放したとて、いっこうにあきらめず食らいついてくる。



「日ごろの努力を知っているからこそ、逃がしてやるわけにはいかない。
逃避が必要ならば、試合が終わってからいくらでも付き合おう。」


私の言葉に、ジャンは、顔を上げた。