消波ブロックに座り込んだまま、しばしの沈黙のあと、ジャンがポツリポツリと語り出した。


「最近うまく滑れなくなってね…。
スランプっていうのかな…。ここ半月くらい、ジャンプがクリーンに決まらなくなったのさ…。
試合に、行くつもりだったけど…、悩んでたんだ。
行くのやめようかどうか…」




戦う舞台は違えど、私も武道をたしなむ者として、ジャンの心情は理解できる。


言葉もなく、愛想笑いも返せないでいた。

私は、改めてまじまじとジャンの顔を眺めた。



ジャンの大きな目の端が、かすかに充血していた。

いつもの、いかにもハーフらしい色白の肌の内から輝くようなはつらつさが、目の下のクマのせいだろうか、今は陰って見える。

思いつめ、寝不足なのだろう。


私も同じ顔をしている。

向かい合い、私たちは鏡のように覇気がない。



「…悩んでいたなら、どうして何も言わなかった…?」


「こんな状態のキミに言えるわけないじゃないか」


…返す言葉がなかった。

「琴湖には…」


「…言ってないけど、気づいてると思う。…琴湖はカンがいいから」



ジャンのその言葉が、私の心中を突き刺した。


私も琴湖も、ジャンの試合を観戦しに行ったことはない。

特に琴湖は、アイススケート場は、寒いから、と嫌がる。


その琴湖が観戦に行くとは、やはりジャンの状況を察知し、気づかったがゆえの行動に違いない。



私は、これほどまでに思いつめていたジャンに気がつかなかった。



あらためて今の自分の余裕のなさと、配慮の至らなさを痛感していた。


私に比べ、ジャンも余裕がない状況にも関わらず、悩みを秘めたまま、私を励まし続けてくれていたのだ。


自らの狭量さに、顔から火が出る勢いで恥じた。


知った今どうする?



「うまく滑れないなら、試合に出る意味がないのさ…。
だから、二人で海にショートトリップするのも悪くないと思ったのサ」

投げやりな視線でジャンは海を眺めた。