「何を言っている!」

私は再びジャンの腕を取ろうとした。


「行かないって」

ジャンは、私の腕をかわして身をひるがえし、消波ブロックの上を軽々と走って逃げた。
さすがは、身軽だ。


「待て!」

私もジャンを追い、ブロックの上を移動する。
ジャンが、止まる気配はない。


追いかけながら、ジャンに向かって叫んだ。

「待つんだ!こんな場所を走るでない!
ケガでもしたらスケートはどうする!!
・・・ぅわっ!!!」


「・・・大丈夫かい?」

私の声に反応して、振りかえったジャンが、私に駆けよる。


「・・・大丈夫だ」

咳払いをして答えた。

冷や汗をかいた。
他人の心配をしている場合ではなかった。

私自らが、足を滑らし、消波ブロックからあやうく転落するところであった。
よろけて、消波ブロックにしがみつくように膝をついた。

心配したジャンが、私のそばにしゃがみこむ。


私はジャンの肩をつかんだ。

「…どうしてなんだ!試合に行くつもりであったから、ジャージ姿なのだろう?!」


「スケートはもうやめようと思ってるんだ」

ジャンは、ケロッとした明るい顔で言った。


あっけにとられた私の前で、

「あ、そうだ!!フィッシングでもしないかい??せっかく海に来たんだ!エンジョイしようじゃないか!!」

ジャンは、思い立ったように、釣りをするしぐさをして見せた。


「やめる?!なぜだ?!」

私は目を丸くして聞き返した。


「向いてないっていうのかな」

あはは、とジャンは軽く笑った。


「向いていない・・・?あれほど、日々精進していたではないか!!3歳のころから続けているのだろう?今さら、簡単に向いていないなどと・・・!!」


「簡単になんて言ってないさ!!!」

強く問いただそうとする私に対し、突然、ジャンが声を荒げた。


「しかたないじゃないか!!とべなきゃやめるしかない!!」


私は、息をひそめてジャンを見つめた。
感情的になるジャンを見たのは、はじめてだった。

「・・・とべない・・・?」


ジャンは、悔しげに下を向き、くちびるを噛みしめた。