私は、反射的に顔あげた。


「昔ね、パパとママと3人で動物園行ったことあってね」

未礼は、ウサギを見つめながら続けた。
声のトーンは明るい。

「ここと違うんだけど、その行った動物園もこんな風にウサギにエサがあげられてね。
小さい頃のことだから、あんまり記憶はないんだけど、パパもウサギにすぐに懐かれてたの」


私は、神妙に聞き入り、相づちを打った。



「ママよりも、パパ。パパはスゴい得意げだったなぁ」

そう言って、昔を懐かしむように目を細めて笑った。



未礼が、自分から実の両親の話をしたのは初めてだった。



一転して、未礼は弾んだ声で力説を始めた。

「それでね、あたしは子ども心ながらに、ウサギは強い人を見分ける能力が強いんじゃないかって思ったの。
ウサギは小さくて弱いでしょ?
だから、誰のそばにいれば一番安全かを見ぬく能力に長けてるんじゃないかって」



「・・・なるほど。確かに、動物は人間の力関係を見抜く目があるというな。
とくに犬なんかは…」

そういえば、昔面倒を見ていた犬は、私がどれだけ世話をしていようと、私より兄になついていた。
思い出して、不愉快になった。
すぐに気を取り直したが。


「あ、もう1羽きたよ!!」

「ゆっくりニンジンを差し出してみるのだ」

「うん。・・・あ、食べた!!」

「よかったではないか」

「うん!!可愛い!」

未礼は、小声ではしゃいだ。



「はぁ、癒されたねぇ。次はどこ行・・・」


触れ合いコーナーを出たところで、水滴が頭に落ちた感触がした。

ご機嫌でスキップをしていた未礼も空を見上げる。

「雨?」

見上げると顔にも水滴が落ちてきた。
相当雲が分厚くなっている。

「降り出しそうだな」