「ああ。難点をしいて言うなら、野菜が取れていないということだけだな」


「そう言うと思って用意してるよ、野菜ジュース!」

待ってましたとばかりに未礼は、袋から水筒を取り出しフタをあけた。


「野菜ジュースも手作りか?」


「ミキサーにかけただけだよ。フルーツも入ってるから飲みやすいよ。はい」


あっという間に食べ切れてしまった。


「ありがとう。美味かった」


「お粗末さまでした」

完食した私を見て、ほっとした笑顔になった未礼が、少し大人に見えた。


見た目は、個性的であったが、愛妻弁当というものは、美味しいものなのだ。
感心した。



「ウサギにエサがあげられるみたいだよ!!」


動物との触れ合いコーナーは、多数の親子連れでにぎわっていた。

柵に囲まれた広場の中で、直接ウサギに餌をやれるのだ。

飼育員から、スティック状のニンジンが入った紙コップを渡された。


「あー、まってまって、ウサギさーん!」

未礼は、どうも動物との接し方がわかっていないようだ。


「小動物は警戒心が強い。追うと逃げられるだけだぞ」


私の忠告に、未礼は困った顔をして立ち尽くしている。


「自分から行くのではなく、兎のほうから餌に寄ってきてもらうのだ」


しゃがんで餌を持つ私のもとに、2羽のウサギが恐る恐る近づいてきた。

「あ!食べた!」

「大きな声を出しては逃げるぞ」

「そうだね」

口元を押さえ、スローモーションのような動きで、そろそろと未礼が私の横にしゃがんだ。

未礼ごしに、仰いだ空は、すっかり雲でおおわれていた。


2羽の兎は、競い合って私の持つニンジンを食している。


その様子を未礼は、嬉しそうに一心に見つめている。


そして、つぶやいた。

「・・・啓志郎くんも、ウサギに好かれる人なんだね」