「うわーーい!動物園ー!!」


未礼は、車からジャンプするように降りると、ニットコートをたなびかせ、入場券売場まで走っていき、

「啓志郎くーん!早く早くー!」

と、大きく手招きをした。



動物園への道中、車内で未礼は、動き回りやすいように、今日はタイツとショートパンツにしたんだと言っていたが、本気で遊ぶ気満々のようだ。



「あたし、キリンが見たい!!」




未礼が、今まで動物園に行かずにいた理由は、“両親を思い出すことを避けるため”ではなさそうだ。

私の思い過ごしだったか。
よかった。




「…わかったから、そんなに急がずともキリンは逃げぬ。走ると転ぶぞ」


「あ!サイだ!サイだよ!!」



目に映るものに興味を抱く。
好奇心が飛び火する。


遠足に来ていた幼稚園児の集団にまじって、子どもと同等に、大はしゃぎしている。

教諭が話す動物の解説を、園児と一緒になって聞いている。



今日は、遊びに連れてきたのだ。
心から楽しめばよい。

連れてきたかいがあるというもの。



私は、幼稚園児の相手をするような気持ちで、柵から身を乗り出して動物に手を振っている未礼を、ななめ後ろから見守った。



気がかりなのは昼食だ。


私は時計を見た。



「お腹すいたねーー!」

と、未礼が振り返った。





ベンチに腰かけ、未礼は紙袋からビニール袋を取り出した。


袋の中にはアルミホイルに包まれた丸い塊が二つ入っている。

その一つを私に手渡した。


「はい!愛妻弁当だよ〜☆さあ、召し上がれ♪」



大きさは、ソフトボールくらいだろうか。

私の両手にずっしりと、銀色のボールのような大きな塊が乗っている。


「…なんだこれは…」



手の感触からすると、どうやら、おにぎりのようだ。

慎重にアルミホイルをめくると、…黒い。


全面に海苔がまかれたおにぎりが姿を現した。

ただの巨大な、にぎりめしか。



「具は何だ?梅干しか?」


「食べてみてのお楽しみだよ♪」