怖がってるのか、幼子はなかなか話そうとしない。


代わりに母親が説明した。

「私たち、この公園の近くに住んでいるからいつもこの公園で遊んでて。
この子がそのネックレスを見つけたのは昨日の午前中みたいなの。そうだったわよね、たっくん?」

幼子は小さく首を縦にふり、指をさした。
遊歩道の植え込みのあたりを。


「ごめんなさいね。この子ったら、ネックレスを拾ったこと言わないものだから、私もさっき知って…。
私の知らない間に、近所に住む女の子に、あげちゃってたらしいのよ。
その女の子のママがさっき、うちに届けに来てくれて…」


「そうだったのか」



つまり、こういうことだ。

キレイな宝石を見つけた男児は、好きな女児の気を惹きたい一心で、拾ったネックレスを女児にプレゼントしたのだ。

親を介しない、子ども同士の譲渡だ。

見知らぬネックレスを持っていることに驚いた女児の母親が、男児の母親に返しに行った。

その男児の母親が今こうして私にネックレスを返しに来たのだ。


「はじめは警察に届けようと思ったんだけど、
今日、あなたたちが何かを探してたのを見たこと思い出して。
警察に行く前に、先にあなたたちに確認しようと思ったの」


「確かに、これは私たちが探していたもので間違いない」


跳ね上がるような昂揚感を押さえつつ、私はそっと手を伸ばし、
幼子の手の中で黄金に輝く小さな財宝を受けとった。


指先が、ふるえる。

水平線を染める赤色を反射し、ゴールドのチェーンが、かすかに煌めいた。


再び、桧周と顔を見合わせる。

目と口を大きくあけ、まるで驚いたような桧周の笑み。

私も同じ表情だったに違いない。

いまだ胸中は、バクバクと音を立てている。



「よかったわ。ほら、たっくんも謝りなさい!ごめんなさいって」

母親は、ふて腐れたように口をつぐんだままの幼子の後頭部を押してお辞儀をさせた。


「謝る必要はない。むしろ礼を言う。そなたが拾っていたからこそこうして無事に戻ってきたのだから」





早く、未礼に返してやりたい。

喜ぶだろう。

未礼の元へと向かう。

自然と、かけ足になっていた。