それから電車、新幹線を
乗り継ぎ、お母さんの
親しい友人がいる
新潟県までやってきた。

「急にごめんねー
アケちゃん」

「いいから いいからっ♪
ゆっくりしてって!!」
アケちゃんと
呼ばれてる人は
見た目がとても派手で、
私はなかなか
近付けなかった。


「今日から暫くの間、
アケちゃんのお家に
お泊まりするから、
光は小学校休みで、
舞ちゃんも保育園休み。
だからお利口さんに
してようね」

「はい」
重く返事をする兄を
尻目に私はただ、
「いつ帰れるの?」
「保育園いつ行ける?」

を繰り返した。

「舞ちゃん…あのね、
もうあの保育園には
行けないの」

「…なんで??」

「パパとママが…
お別れするから
ごめんね」

あんなに悲しそうで、
辛そうなお母さんの
顔を見たりしたら、
いくら幼くても
“我が儘言ったらダメ”
ってことは理解できた。

暫くしてお母さんは
病院と買い物のために
出掛けた。

広い和室には
私と兄だけ……。
今までなかった状況に
ただ困惑していた。


“おにいちゃん”
とゆう言葉に
恐怖…とゆうか、
戸惑いとか躊躇いが
ぎこちなさを
伝えさせただろう。

「お…にぃ…ちゃん」

普段なら父に叱られてる
その言葉は
きっと私が聞こえるより
震えてただろう。

そんな私に
嫌悪したのか兄は
嫌々返事をする。

「なんだよ」

「おかあさん…
かえってくるよね?」

あんなに血を流して…
無事に帰ってくるのか。

捨てられたり
しないだろうか…
ただ心配していた。


「大丈夫だよ。
すぐ帰ってくる」


不安そうにうろたえてる
私を兄はため息をついて
呆れていただろう。



それから私は
話題が見つからず、
気まずさに耐えながら
窓の外を眺めていた。


やっとお母さんが
帰って来た。


でも



このときすでに
お母さんの左耳は




聞こえなくなっていた。