そこには父に
殴りつけられ続けてる、
血だらけのお母さんが
倒れていた。


「お…かあ…さん?」


パタッ


「舞香…!!」

私に気づいた父の右手は
お母さんの血で
滴るほどだった。


私は恐怖のあまりに、
ウサギのぬいぐるみを
床に落とした。



「おかあさん!!」


無我夢中で、泣きながら
お母さんの元へ走った。

ぐいっ

「っ!?」


お母さんに触れる寸前に
父に腕を引っ張られて
お母さんから
遠ざけられた。

「なぁ舞香、パパとママ
どっちが好き?」

父は何事もないかの様に
問い掛けてきた。


「おかあさん!!」

私は迷わずに答えた。

別に殴られたっていい。
どうせいつも
殴られてたんだから。


だが父は怒りもせず、
顔色も変えずに
また問い掛けた。


「じゃあ…この先
ずーっと一緒に
暮らしたいのは、
パパとママどっち?」

「おかあさんっ!!」


こうしてる間にも
お母さんが死んで
しまいそうな気がして、
私は掴まれた腕を
思い切り振り払って、
お母さんの元へ
駆け寄った。


「だいじょうぶ!?
おかあさんっ!?」

お母さんの頬に触れると
ヌチュ…と血が左手を
紅く染めた。

「っ…おかあさん!!
しなないでっ!!」

息を切らしながら、
お母さんは起き上がって
私の頭を撫でた。

「大丈夫…
…ありがとう舞香」


あの瞬間の優しい
笑顔は忘れられない。


「光はどうだ?
どっちと一緒になる?」

父が鋭い眼差しで
見つめた先には、
いつの間にか
私の兄【光(ヒカリ)】が
立ち尽くしていた。


気まずそうに、
兄は暫く考えて
恐る恐る

「お母さんがいいです」

と言った。


「そうか…わかった」
父はすくっと
立ち上がった。

「仕事帰りに離婚届
取ってくる。
詳しい話しは
帰ってからにするぞ」

一方的に言い残して
家を出て行った。

父が出て行った後、
お母さんは
「自分の荷物まとめて」
と兄に指示した。

私の方を向き、
「舞ちゃんお着替えセット
1人で準備できる?」

「うん、できる」

「じゃあ、なるべく
いっぱいお泊まり
できるように準備して」

黙って頷いた。

私と兄が荷造りしてる
間にお母さんは、
血だらけの身体を
シャワーで流し、
部屋中を綺麗に
片付けていた。