【小川 舞香】


物心がついたのは、
僅か2才の頃。

毎日がとても幸せに
満ち溢れていた。

これから起きる現実の
惨さや、大人の汚れを
目の当たりにさせられる
なんて…予想さえも
しなかった。


私には父が定めた
ルールがあった。

◎父の許可なく外出は
禁止。

◎父の前以外で、
兄との会話は一切禁止。

幼い私はただ従った。
それが普通だと
思っていたから、
苦痛も何も
感じていなかった。


当時2才半ぐらいの
ある日だった。
保育園からお母さんと
帰宅してすぐに、
近所に住んでいて
保育園でも特に仲のいい
友達たちが家に来た。


「まーいかー――!!」
大きな声で呼ばれた
私は窓から顔を出した。

「みんなどうしたの?」

「いまから、どんぐり
こうえんにいくんだ!
まいかもいこうぜ!!」

と、誘われた。
でもお父さんとの
ルールがあるから…。

保育園以外で初めて
遊びに誘われた私は
ワクワクしていたけど、
断ろうとしていた時に
お母さんが、

「今日お父さん帰り
遅くなるらしいから、
行ってきたら?」

と、お母さんの
優しい後押しに安心した
私はお気に入りの
ジャンパーを羽織って、
外に飛び出した。


家からほんの少し
離れたところで、
父の怒鳴り声が
聞こえた。


「舞香!!」

「戻って来い!!」


見たことのない程の
父の剣幕と怒鳴り声に、
身体が怯んで
動けなかった。


友達は呆然としていた。

怒鳴り声を聞きつけた
お母さんが外に
出てきた。