「何ニヤニヤしてんだよ、気持ち悪い」


寿也が片眉を吊り上げて、俺を煙たそうに見る。


「トシくん聞いて」

「なんだよ」

「俺、恋しちゃったかも」


俺のその一言に、寿也はブッと吹き出した。


「あー!?
何で笑うんだよテメー!」

「おいわせんじゃねーよ。
瑞希が恋?
“来るもの拒まず、ただし来たものは片っ端から食いつぶす、だけど自分からは絶対に女の方に行かない”がポリシーのお前が?」

「ま、そーゆーこと!
いやー……これはあれだ、うん、世に言う一目惚れってやつだな」


それを聞いて再び吹き出す寿也。


「ちょ……お前が一目惚れって……」

「なんだってんだよ!
文句あんのかよ!」

「いや、別に。
ただ明日は雪降るなって思っただけ」


寿也はコホンと小さく咳払いをして、顔をいつもの仏頂面に戻した。


「で、誰に?」

「名前は知らねー」


俺は窓際の一番前の席に座っている女を指差した。


寿也は俺の指差す方向をゆっくりとたどっていく。


そして「ああ」と、分かったというふうに呟くと、俺に視線を戻した。