俺が部屋に入ろうとすると、隣りの部屋のドアが静かに開いた。


「お兄ちゃん……?」

「……瑞穂(ミズホ)」


隣りの部屋は瑞穂の部屋。


あ、瑞穂は俺の6つ下の妹。


「あ、わりぃ。
起こしちゃったな。
うるさかったか?」

「ううん、平気」


瑞穂は小さく首を横に振る。


「まだ4時だから、部屋戻ってもう1回寝ろ。
体冷えるぞ」


俺は瑞穂の小さな背中を押して、部屋に戻す。


「お兄ちゃん……。
今日も、遅かったね」


そう言って俺を見上げた瑞穂の大きな瞳は、寂しげに揺れていた。


思わず息を呑む。


「……そう、かな」


「ねえ、お兄ちゃん……」


何かを訴えたそうな瞳。


思わず目を背ける。


「……やっぱり何でもないや。
おやすみなさい」


パタンと静かに閉まったドアを、俺はしばらく見つめていた。