「あ~……悪い」


俺が適当に謝ると、女はあからさまに不機嫌そうな顔をする。


「あたし、瑞希の彼女だよね?」


始まった。


「瑞希、あたしのこと世界で1番大事だって言ったよね?」


あー……めんどくせ。


「なんであたしの約束すっぽかして水上さんとデートするの?」

「……聞くまでもねぇだろ」

「え?」

「お前より水上のことが好きだから」


俺にとって、今1番大事なのは水上。


認めたくねーけど、もう夢中なんだよアイツに。


カッコ悪いけど、俺は水上に惚れてる。


「ヒドい……!」


女はそう呟いて俺を鋭く睨み付けると、バタバタと教室を出て行った。


「やるじゃん、瑞希」

「あぁ?」


寿也が俺の肩をツンとひじでつつく。


「お前が女にあんなキツい態度取るなんて初めてじゃね?
え……ガチなの?
お前ガチで水上のこと……」

「だから最初からそう言ってんだろ!」

「へー……。
瑞希が一途だなんて……奇跡って起こるんだな」

「黙れよ」


こうしてまた寿也と言い合いになる。


……だから気付かなかった。


あの女が……。


あの女が、教室を出る間際に、水上のことを物凄い剣幕で睨み付けていたことに……。


俺は気付かなかった。