「こ…子供?」

 現実味のない単語を、早紀は繰り返していた。

「ええ…次の鎧を、継ぐ者が必要ですから」

 しかし、零子は当たり前のように言葉を続ける。

 んーと。

 早紀は、出来るだけ彼女の言葉を、オブラートにくるんで考えることにした。

 要するに。

 真理を囲んでいる女性たちは――彼のお嫁さん候補、ということか。

 なるほど。

 だが、納得はするものの、ひっかかるところもある。

「でも、何で前から騒がなかったのかなあ」

 真理が、鎧の継承者であることが、隠されてでもいたのだろうか。

「先日の戦いで、これからしばらく魔族の勝利を確信したからでしょう…魔女は強い者が好きですから」

 さりげなく、零子は容赦なかった。

 ぷっ。

 意味を理解した早紀は、軽く吹き出してしまう。

 階級が高いだけでは、魔女は群がらない、と。

 あの真理が、いままで彼女らに品定めされていたと言うのだ。

 ようやく、お眼鏡にかなったというところか。

 その栄誉の歓迎を、真理は押し退けるように校舎へと向かってしまった。

 トゥーイは、まだ囲まれたまま。

 だからだろうか。

 零子は、ここを離れる様子はない。

 ガラス玉のような瞳で、魔女たちを見ている。

「お嫁さん候補に…興味あります?」

 早紀は、ちょっとだけ気になった。

 彼女の瞳は、トゥーイというより、そっち中心に向いている気がしたからだ。

「そうですね…死ぬまで一緒に暮らす人になりますから」

 淡々と、零子は答える。

 そっかあ、奥さんになる人とこの人は、一緒に暮らさなきゃいけな……あれ

 え?

 いま考えていたことは、零子だけの問題ではなかったのだ。

 間違いなく――早紀も同じ立場だった。