早紀の顔色は、かなりよくなっている。

 まだ完全ではないのは、当たり前だ。

 あれ以上、真理の魔力を分けてやっていたら、彼の方が動けなくなっただろう。

「あ、あの…怪我…治りました」

 やはり、真理のことは覚えていないような話が、ちんたらと始まった。

 そうだ、傷だ。

 その点については、彼も気になるところがある。

「自然に治癒したのか?」

 問いかけると、問われること自体に、早紀が驚いた顔をした。

「分かった」とだけ真理が答えて、そのまま出て行けると思っていたのだろうか。

 しかし、これから傷を負わないということは、考えられない。

 少なくとも真理はまだ、真っ向勝負について、あきらめる気はなかったのだ。

 だから、必要な情報は早紀から引き出しておく必要があった。

「あ、いえ…鎧が、治してくれると言って…」

 早紀は──思いがけない言葉を吐く。

「鎧が?」

 早紀は、真理と鎧と、半分ずつの契約をしたのだ。

 その鎧が、彼女を生かそうと助けることがあっても、確かにおかしくはない。

 真理が、魔力を分け与えたように。

 だが。

「はい、鎧が魔力をくれたら治してやるって…」

 その補足で、真理は目を細めなければならなかった。

 魔力を、くれたら?

 いやな、キーワードだったのだ。

「正確に、何と言われたか覚えているか?」

 はしょられ過ぎた言葉では、理解しづらかった。

「ええと…傷を治す量の魔力をくれるなら、治してやれるが、それでいいか? とか、そんなカンジで…」

 とつとつ、と。

 思い出し思い出しながら、早紀は鎧の言葉を伝える。

 真理は、眉間を押さえていた。

 この女は、バカだとはっきりと分かったのだ。

 魔族が人間をたぶらかす時の、常套句のような詐欺口上だったのだ。

 魔力をどのくらい必要なのか、とか確認もせずに、早く痛みから解放されようと飛びついたに違いない。

 おかげで、死ぬ寸前まで魔力を引っこ抜かれている。

 しかし。

 呆れながらも、真理は引っかかった。

 しかし──早紀が、あんな抜け殻になっても、鎧は困らないというのだろうか、と。