「闇でありながら、なんと影の薄い鎧よ」

 感嘆というより、それは嫌悪の声に聞こえた。

 鎧の一人が、言った言葉だ。

 その時──分かった。

 真理にとって、とても理解しやすい言葉だったからだ。

 早紀の存在だ。

 もっと、彼は疑問に思うべきだったのだ。

 これまでの人生の中で。

 どうして、何度も何度も早紀の存在を忘れてきたのか。

 自分にとっては、鎧のイケニエになるべき存在だ。

 キー的存在といっていい。

 真理は、それに同意したわけではなかったから、もっと熱心に彼女を追い出すべきだったのだ。

 なのに、何度も何度も存在を忘れ、思い出し、そしてまた忘れていた。

 同じ車で、毎日登校していながら。

 学校で、早紀の額の印について、誰も騒ぎ立てなかったこともおかしかったではないか。

 そう、か。

 真理は、主の前だと言うのに、自分の滑稽さに笑いさえ浮かべかけていたのだ。

 そうか、そうだったのか。

 早紀は、ただ影が薄かったわけではない。

 影を薄くしようと、自らしていたのだ。

 努力ではなく──魔力で。

 自分が魔女だと知らない女だったので、無意識に使っていたのだろう。

 そして。

 その力は。

 予想外に大きかった、というわけだ。

 この三人が、指摘されるまで気づかないくらいに。

 出会いがしらに、先輩方に一撃を食らわせたようなものだ。

 相手にとって面白いはずがない。

 歴戦の勇者さえ、その中にはいるというのに。

 一方、真理にとっては思わぬ拾いものだった。

 早紀の能力など、これっぽっちも期待していなかったのだから。

「どうぞ、お見知りおきを…」

 跪いたまま、真理の心は昏い喜びで満たされていったのだった。