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『うわ…』

 嫌そうに呟いたのは、貴沙だった。

 学校でのことである。

 車から降りるなり、前以上の魔女たちが真理を取り囲んだのだ。

 しかも。

 前ほどの軽薄さを、みな持ってはいなかった。

 獲物を狙う猛獣の目だ。

 みな、ライオンのメスが狩りをする時の瞳で、真理を取り囲むのである。

 幸い、早紀は──無事以外の何物でもなかった。

 元々ステルスがあるというのに、先日の限定解除とやらのせいで、ますますその力が上がってしまったようだ。

 真理が、一瞬視線で早紀を追う。

 それだけで、彼女は言葉にできない幸せな気分を味わえるのだ。

『ばーか』

 幸せ気分が、たとえ自分の中の同居人に足蹴にされようとも。

 そんな、真理狩りの風景の向こうに。

 数人の、思惑の違う者たちが、こちらを見ていた。

 ひとつめは、タミとその兄。

 タミが視線をさまよわせているのは、早紀を探しているのだろうか。

 彼女の中の、海の珠を取り除こうと思っていた者。

 取り除くどころか、更に過去の珠と貴沙の魂を融合してしまったため、ますます応じられそうになかった。

 だが。

 その件に関しては、真理の鎧鍛冶の一族が、保証に近い言葉を残してくれている。

『解放者に、他家の鎧鍛冶が失礼なことはできますまい…ましてや、見つけられぬのなら無意味なことですな』

 勿論、早紀の中に海の宝の珠があることを、真理は言わなかった。

 ただ、他の鎧鍛冶の一族が、早紀の力を調べたがってつきまとっていると、そう言っただけだ。

 タミの一族に切り札があるのは確かだが、前ほど自由には動きまわれないという話だった。

 早紀は、自分からタミに見つかるような行動は取らず、遠巻きに彼女を見る。

 嫌いでは、なかった。

 いい人というより、自分の好きな物にのみ突き進まずにはいられない人だったのだ。

 彼女のおかげで、葵と再会できた。

 自分の本当の正体も分かった。

 そして──本当の、葵の笑顔を見られた。