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 真理は、鎧になった早紀に入ろうとした。

 彼の言葉で、早紀の自我が歪んだのを感じて、鎧にしたのだ。

 うまく落ち着かせる言葉を探すより、それが早かった。

 そして。

 彼女の中に入ろうとしたのだ。

 が。

「……!」

 初めて──鎧が拒んだ。

 触れれば受け入れるはずの鎧が、真理の指をはじいたのだ。

 予想外の出来事に、彼は自分の指を見た。

 もう一度、今度はそっと触れる。

 だが。

 金属の塊は、やはり真理を受け付けない。

 反射的に、彼は早紀の気配をたどった。

 目の前にいるのだから、たとえ鎧になっていようと、それはあるはずだ。

 なのに、気配はどこにもなかった。

 いつもつながっているはずの一本の糸が、どこにもない。

 ということは。

 鎧の中に、早紀はいないということだ。

「……!!」

 その兜に、真理は両手で触れた。

 抜け殻の、ただの金属。

 そんなものと、添い寝をするようにベッドに横たわっている滑稽な光景。

 一体。

 鎧になる寸前の、早紀の様子が気になった。

 しかし、すぐに解決法に気がつく。

 そうだ、と。

 鎧を解けばいいのだ。

 その額をもう一度なぞれば。


 早紀は──戻ってはこなかった。


 鎧は、ただあるがまま。

 最初から空っぽであったかのように、そこに転がっているだけ。

 真理の契約者は。

 いなくなってしまった。