タミの部屋は──黒かった。

 いつの間に、調度品を運び込んでいたのだろう。

 元々、どんな部屋かは知らないが、カシュメル家のものとは違う黒が、部屋を覆いつくしていたのだ。

 光沢のある、金属のような黒が多い。

 おずおずと、慣れない部屋に足を踏み入れた早紀は、前をゆくタミが、やはりまごうことなくクローゼットに向かうのを見た。

 そして。

 開け放たれる。

 黒、黒、黒。

 しかし、早紀の部屋の黒とは違う。

 光沢も、黒具合も、ラインも。

 一目見ただけで、早紀のただの黒い服の海とは違うと分かった。

「脱いで」

 その服を、手袋の手で器用により分けながら、タミは言う。

 ぬ、ぐ?

 早紀は、思わずきょろきょろした。

 脱ぐって。

 自分を見ると、しょぼいパジャマ姿。

 脱ぐものなんて、これくらいしかない。

 しかし、脱いでどうするというのか。

 雰囲気的に、タミの出す服と着替えるということなのか。

 早紀の部屋の服では落第で、自分の服を出そうとしているように見える。

 何故か、という理由は分からないままだが。

「えっと」

 まごついている早紀を尻目に、タミは黒いレースで作られたドレスを引き出す。

 それを、じいっと見ている。

 たらっと。

 早紀は、いやな汗をかいた。

 まさか、それを自分に着せようということじゃないよね、と。

「脱いだ?」

 振り返ったタミの一言に、早紀は別の意味で逃げておけばよかったと後悔したのだ。

「まだ…です」

 困った眉間を作った瞬間、額がズキッとひどく痛む。

 真理に、「逃げるな」と言われた気分だった。