「あ、あの…?」

 タミの背中に、ついに早紀は声をかけた。

 早朝からの訪問の意図を知ろうとしたのだが、彼女の言葉は、タミに自分の位置を認識させたようだ。

 振り返った視線が、すんなりと早紀を捕まえる。

 確認するように一度まばたきする、整えられた目元。

 そして。

 表情を、微かに曇らせる。

 タミの視線は──早紀の額に注がれていた。

 あっ。

 慌てて傷を隠そうとしたが、時すでに遅し。

 みっともないものを、見られてしまった。

 疑問よりもバツの悪さが勝って、早紀は小さくなりかける。

「部屋へ」

 彼女の存在を、見失わないようにか、タミが声をあげた。

 はっと顔を向けると。

「私の…部屋へ」

 そう言うなり、出口の扉へと向かおうとするのだ。

 え?

 全ては語られなかったが、タミの部屋に来いと言ったのだろうか。

 一体、どうして?

 心当たりがあるとしたら、昨日だ。

 真理とのトラブル。

 それを、ほんの少し垣間見たタミ。

 だが、その事件とクローゼットの、因果関係は分からない。

 タミの部屋へ行く因果関係は、もっと分からない。

 朝から部屋を襲撃されて、落胆されたり、傷を見られたり。

 一体、彼女は何を。

「声…」

 出口の扉で一言だけ。

「は、はい」

 反射的に、答えてしまう自分は、一体何の病気なのか。

 ついていかなくてもいいという選択肢は、早紀にはないようだ。

 疑問という以前の思考の中、彼女はのそのそとベッドから足を下ろす。

 とりあえずいまは。

 真理に合わなくていい口実だと思えば、理不尽な誘いでも、ついていけそうな気がした。