朝。

 早紀は、夢から転がり落ちたまま、ベッドでぼんやりしていた。

 今日は平日だ。

 いつも通りなら、きちんと着替えて準備をして、学校へ向かわなければならない。

 真理と一緒に。

 そこだ。

 その部分が、早紀をベッドでぐずらせるのだ。

 ずきずきと鈍く痛む額が、否応なしに彼の存在を思い出させる。

 逃げた自分と、連れ戻した男。

 噛んだ男と、放り出された自分。

 そんな男に合わせる顔など、早紀が持ち合わせてはいなかった。

 本当に。

 夢の中にとどまっていられたなら、どんなに楽だったか。

 だが。

 早紀をただぐずらせてくれるほど、世界は彼女に優しくなかった。

 突然のノック。

 早紀は、毛を逆立てた。

 慌てて時計を見る。

 しかし、まだ登校の時間ではなかった。

「タミです」

「ひゃあい」

 名乗られた瞬間、ビビった勢いで反射的に変な声を出していた。

 真理でなかったことにほっとすると同時に、何故彼女が自分の部屋に朝っぱらからきたのか、という疑問がわきあがる。

 だが、その思考は自分が思ったより、ゆっくりだったようだ。

 その間に、ドアを開けたタミが、すっと部屋の中に入る。

 ちらと室内を見ただけで、彼女は早紀の存在をきちんと認識しようとはせずに、クローゼットに向かったのだ。

 開けた瞬間。

 一瞬、タミが固まった。

 ハンガーに並んでいるのは、買い与えられている黒い黒い黒い服。

「はぁ…」

 彼女は、深いため息を漏らす。

「???」

 ベッドの上の早紀は、その落胆めいた背中を眺めているしかできなかった。