「なんだ…起きるのか?」

 やや不服そうに、鎧の男は早紀に言った。

 身体が、目覚めに向かおうとしているのを、彼女も自覚しかけていて。

 不意に夢からはがされることが多いが、今日は珍しく目覚める直前を感知したのだ。

 額が、痛い。

 二人に、夢とうつつの両方で噛まれたのだ。

 どこにいても、痛いに決まっている。

 その額を抱えたまま。

 そっか。

 無理に、起きなくてもいいのか。

 そんなことを考えていた。

 真理の言葉が、よみがえったのだ。

『生きるのが嫌なら、夢にでもひきこもっていろ』、と。

 少し。

 戸惑った。

 夢とうつつの狭間で。

 生きる目的も必要も、早紀には見つけられなかった。

 隙間が──そう、身体中隙間だらけなのだ。

 その隙間を、時々埋める酷い存在が、うつつにはいた。

「しばらく、こっちにいたらどうだ」

 鎧の男が、珍しく引き止める。

 いつも、簡単に早紀を目覚めさせていたというのに。

「どうして?」

 不思議だった。

 早紀がここに残りたいとグズった時には、ひどい記憶を見せて追いたてた。

 その男が、引き止めるなんて。

「どうして? そうだな…嫌な予感がするから…か?」

 自嘲ぎみな笑い方だった。

 いつもの笑い方と違う気がして、早紀は足を止めた。

「いや…いい…さっさと目覚めろ」

 その笑いを払うように、男は早紀の背を押し出す。

 あっ。

 夢から──転がり落ちていた。