いろいろなモヤモヤを抱えたまま、早紀は登校した。

 自分の父親は、魔族だと言われるし、タミが雇われた医者だし、前回の回復には疑念が残るし。

 モヤモヤしない方が、おかしいだろう。

 しかし。

 休み時間に、それらを吹っ飛ばすような、とんでもない事件が起きた。

 学校の職員が、早紀を呼びに来たのだ。

「は、はい!?」

 ステルスには自覚があったので、呼びかけに慌てて答えて席から立ち上がる。

 呼び出しなんて、生まれて初めてだった。

 何事かと、職員に駆け寄ると。

「ご親戚が、面会にお見えです」

 し・ん・せ・き?

 口をぽかんとして、その言葉を復唱してしまった。

 早紀の親戚といえば、カシュメル系列しか考えられない。

 しかし、わざわざ彼女を呼び出す人など、誰も思いつかなかった。

 思いつくほど知らない、と言った方が正しいか。

 修平さん、かな。

 真理とは遠縁なのだから、修平とも一応そうなるのだろうし。

 早紀は、首を斜めにひねったまま、応接室へと案内された。

 そこには。

 真っ黒い、フードつきのマントに身を包んだ男がいた。

 男、と言っても顔が見えたわけではない。

 ひどく大きくて、がっしりしていたので、女とは思えなかったのだ。

「少し…二人にさせてもらえますか?」

 低く低く、押し殺したような声。

 早紀は、ぽかんと男を見ているしかない。

 ドアが閉ざされ、二人きりになった後。

 マントから腕が出て、節のしっかりした人差し指が一本立った。

 その指が、ゆっくりと男の唇の前に立つ。

 指をそのままに。

 もう片方の手が、少しだけフードをずらした。

 こぼれおちる、赤茶けた髪の一房。

 よく焼けた肌。

「………!!!!」

 早紀は、声にならない絶叫をあげていた。

 誰か、分かったのだ。

 伊瀬。

 街で出会った、海族の男ではないか!