むかしむかし、あるところに。

 おとぎ話の、ありきたりな始まりの言葉で、十分だった。

 ひとりぼっちの小さな早紀を、大きくて立派な車がお迎えにきてくれた。

『これから、一緒に暮らしましょう』

 かろうじて、血がつながっている程度の、遠い遠い親戚のおじさまとおばさまは、そう優しく微笑んだ。

 早紀は驚いた。

 こんな立派な車も、こんなお城のようなお屋敷も、自分には無縁のものだと思っていたのだから。

 夢を見ているんじゃないかと思った。

 だが、夢ではなかった。

 屋敷に連れてこられた早紀は、自分と同じくらいの男の子に出会ったのだ。

 仏頂面のその子は、出会うなり早紀を、誰もいない廊下まで引っ張っていった。

 そして。

 そして──こう言った。

『いますぐ、ここをでていけ』

 そう、夢ではなかった。

 掴まれている腕が、とてもとても痛かったから。