英が戸惑っていると、少女の後ろからベンチに座っていた女性が走ってきた。


「こらこら、和奏(わかな)!お兄ちゃんに迷惑でしょう?」


額に冷や汗を浮かべる彼女は、どうやら少女─和奏の母親らしい。


「──え」


英は、目を見開いたまま反射的に顔を上げ、和奏の母親を見た。

彼女は、その視線に気がつくと、申し訳なさそうに頭を下げ、それと同時に和奏の頭をはたく。

乾いた音がしたかと思えば、和奏は泣き出すどころか、キッとまんまるの目をつり上げて──


「遊ぶったら遊ぶの!絶対遊ぶのー!!」


地団駄を踏みながら、駄々をこね始めた。

その姿はまるで、自分がよく知っている誰かさんに似ていたものだから、英は笑った。

そして、和奏と同じ目線になるように中腰になると、真っ直ぐに少女を見る。


「いいよ。一緒に作ろう」


途端に輝く和奏の瞳。

夏の日差しにも負けない明るい笑顔は、澱み(よどみ)なんてない。