「でも、」


英は、栖栗に対して言い返そうとする。

けれど、実はというと何を言おうかは決めていなかった。

そして、それっきり黙ってしまった英を見て、今度は栖栗が──


「チワワだって自分の勉強しなくちゃいけないでしょ?三年なんだから頑張りなさいよ」


と、もっともらしい理由を言う。

が、その場しのぎの理由に感情はない。
とりあえず今は、帰ってくれさえすればいいのだ。


「市──」

「あと、明日‥迎え、いらないからよろしく」


英がまた反論しそうになったので、栖栗は早口でそう言って、言葉を遮る。

英は怪訝そうに顔を顰め、そして目を見開いた。
疑いが確信に変わった瞬間だった。


「‥‥君、昨日から変だ。何か──」

「何もないってば!」

再度、英の言葉を遮ると、叫んだ栖栗の後ろには彼女の愛犬であるゴールデンレトリバーが一頭。

くぅん、と寂しそうな、そしてどこか悲痛な叫びにも聞こえる、鼻に抜けた声を上げるゴールデンレトリバーが、英をじっと見つめている。