けれど、口には出せなかった。

彼女の横顔があまりにも真剣で、あまりにも綺麗だったから。

こんなときに綺麗だと思うのは、不謹慎かもしれないが、そう思ってしまったものは仕方ない。

いよいよ、授業の始まりを告げるチャイムが空に鳴り響いた。
けれど、二人ともそこを動こうとはしなかったし、何かを話そうともしなかった。

グラウンドには体操着を着た生徒が集まり始め、いよいよ授業が始まったのだと英はぼんやりと思っていた。


「“充実した毎日になるよう、祈っています”」


栖栗がふと漏らした言葉に、英はハッと我にかえった。
よくよく考えてみれば、それは、自分が入学式にした挨拶の一部だった。


「な、んだよ ‥」

「祈るだけじゃなくて、充実した毎日になるように協力してよ」

「は‥?」


訳が分からない。

そう言いかけたとき、栖栗が勢いよく立ち上がったものだから、英は言葉に詰まってしまった。

そうして、初めてちゃんと向き合って会話をする。