今までに見たことがない般若のような酷い形相。

英でなくとも、誰もが後退りし、視線を彷徨わせるだろう。


「な、何かあったのか‥?」


意を決して、冷や汗をだらだらと流しながら英は問う。

だが、栖栗は首を横に振り、さっさと歩き出してしまうものだから、答えを聞くタイミングを失った英はただついて行く。

英はいつもと雰囲気の違う栖栗に首を傾げた。

いつもならば、自分が昨晩どれだけ頑張ったかを事細かに説明し、英語の教科書を片手にふらふらと危なっかしく歩くというのに、栖栗の手には英語の教科書はなかった。

そして、いつも自分に(半ば強制に)着けてくる首輪も、今日はない。

英は、本人に気が付れないように、ちらりと横目で盗み見れば栖栗の鼻は真っ赤だった。


「鼻、赤いけど‥」


英が、独り言のようにそう言ったのを見事に聞き取った栖栗は、歩く速度を一気に速めた。



そして、思う。



英が来るまで、くしゃみを連発していたせいだろう、と。

すぐにそう思い当たったが、どうしてそうなってしまったのかを認めたくはなかった栖栗は、きゅっと下唇を噛む。