英の背中を見送りながらも、どこか悔しそうに呟かれた言葉に、ゴールデンレトリバーは、また元気よく吠えた。






栖栗が一通りの単語を覚えたのは、英が帰ってから、二時間後のことだった。


時計は八時をとうに過ぎ、網戸になっていた窓からは冷たい風が入ってくる。

英がいない部屋は、栖栗とゴールデンレトリバーが一頭だけ。

いつもと何一つ変わらないはずなのに、八畳のその部屋は、がらんとしていて、どこか寂しい。

栖栗は、その風にふるりと肩を震わせると、窓とカーテンを締め、そしてセーラー服からTシャツ、ハーフパンツというラフな服装に着替えた。

脱いだセーラー服を丁寧にハンガーにかけると、栖栗は力尽きたようにベッドに勢いよくダイブする。