「──明日、楽しみにしてなさい。完璧にしておくから」


英を見上げながら、栖栗は得意げに笑った。

栖栗にしてみれば、それに関してはっきり言って自信がなかった。

けれど、そうとでも言っておかなくては、この従順な小型犬は、きっとハウスをしてくれない。

英は、苦笑いをすると栖栗の頭にそっと手を置いた。


「あんまり夜更かしするなよ?時間はまだ沢山あるんだし」

「知ってる。とりあえず、玄関先まで送るわ」


栖栗が頷くと、その瞬間、頭に置かれた手がそっと離れた。


すると、いつかの無邪気な笑顔がフラッシュバックして、栖栗は急に寂しくなる。

あの日、自分の頭を撫でてくれた魔法の手は、もう、ない。

胸が締め付けられた。

そして、少しだけ、怖くなる。



栖栗は、首を横に振り、それを掻き消そうとした。

けれど、そう簡単にはいかず、胸はただ締め付けられる。

そうして、せめて玄関先まで送ろう立ち上がろうとする栖栗を、英は慌てて制止して──


「いいよ。市川はやってて」


と付け加え、軽く手を振ると、栖栗の部屋を後にした。


「‥‥“様”くらい、付けなさいよ」