「‥‥なんだ、結構やる気なんだ。嫌々かと思ってた」
英は、あっという間に出された英語の教材一式に視線を送りながら、小さく呟いた。
どうやら栖栗はそれをしっかり聞いていたらしく、ペンケースからシャープペンシルを一本取り出すと、大きく頷いた。
「そりゃあ、ね。それに、夏休みを潰すくらいなら、頑張って勉強した方が明らかに得でしょ」
「‥たしかに。じゃあ、始めようか」
「ワン!」
栖栗が返事をする前に、英の先輩であり彼女の愛犬であるゴールデンレトリバーが、尻尾を千切れそうなくらいに振りながら元気よく返事をした。
いつ部屋に来たのかは分からないが、もし、自分たちの後ろに付いて来ていたのなら、十分なやり手だと英は思った。
時計の針は、四時三十二分を指していた。
カチカチと秒針を刻む音と、ゴールデンレトリバーのハッハッという荒い息遣いだけが部屋に響いている。