英は、突き当たりまでにある三室に順々に目をやるが、置いていかれると困るので、すぐに視線を前へ戻した。

すると、一番奥にある部屋の前で栖栗が止まった。

どうやら、そこが彼女の部屋らしく、何とも言えない期待感と緊張感に浸りながら、英はドアが開かれるのを待った。


「少し散らかってるけど──‥」


栖栗は、金色のドアノブを掴むと、キィ、と音を立てて焦げ茶色のドアを押した。


「入っていいわよ」

「!あ、あぁ‥」


中へ一歩入ると、やはりそこからも甘い香りが鼻をくすぐった。

高校生になってからは、妹以外の部屋に出入りしたことがなかったので、英は言い様のない気持ちになる。


ドキドキと胸が高鳴る。


英は、何がそうさせているのか分からなかったが、あまり深く考えないようにした。

部屋をぐるりと見渡せば、自分が知らない栖栗の日常を見ることができる気がした。

でも、やはり英に言わせれば、それは不躾な行為だし、それでなくても異性の部屋だ。