「違うっ‥他人の方よ!誰もチワワの身内なんかに興味はないわ!」
ムッと眉を顰めながら、ヒステリックにそう叫ぶと、威嚇するようにドンッと思い切り階段を強く踏んでやる。
「‥‥っ!」
英は怖じ気付いて、思わず、息を飲む。
栖栗は、拗ねたように唇を尖らせると手摺に指を滑らせ、行き場のない気持ちを持て余すかのように、深い溜め息を一つ吐いた。
「‥‥どっちにしても、何回かはあるけど‥でも高校に上がってからはなくなったな」
「‥ああそう」
栖栗は、ふぅ、と漏らした息に、そっと言葉を乗せる。
それは、呆れではなく、安堵のものだった。
すると後ろから、何でそんなこと聞くんだよ、と、英の声がした。
けれど、栖栗は聞こえなかったことにしておいた。
だって、自分自身、どうしてそんなことを聞いたのか、分からなかったから。
栖栗は、トン、と最後の一段を上り、廊下の突き当たりまで歩く。