すると、不意に栖栗が振り向いてこちらを見た。
英は、自分の思っていることを悟られたのでは、と思い、慌てて視線を下へとやる。
「‥ねぇ、チワワって女の子の部屋、初めてじゃないでしょう?」
栖栗は、階段をトントン、とリズムよく上りつつも背中を向けながら問い掛けた。
彼女としては、だってモテるから、と、嫌味たらしく付け加えてやりたかったが、一応今回は教えてもらう立場だから、それは敢えて言わないでおいた。
英を困らせることは、栖栗にとってそれはもう、面白いことだ。
けれど、せっかく教えてもらうのだから、失礼なことはできない。
それでなくても、頼んだのは自分なのだから。
そんなことを考えながら悶々としている栖栗を知る由もない英は、突然の質問に、咄嗟に考え込んでしまう。
でも、すぐに思い浮かんだのは──
「そりゃあ、妹の部屋にはよく出入りするし」
という答えだった。
すると、栖栗はカッと顔を赤くしながら、息を思い切り吸い込む。