「うるさい。今何時だと思ってるのよ、チワワ──‥」


───どうやら、自分は、時間とやらに負けたらしい。


英の中にある、人並みのプライドが、今、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。







「チワワ!チーワーワー」


すっかり暗くなってしまった帰り道、栖栗は馬鹿の一つ覚えのように、新たなあだ名を連呼しながら、スキップをしている。

もちろん、英の首には首輪があって、飼い主(栖栗)の後ろを、怒られたあとの犬のようにトボトボと歩いている。

明日から、の筈だった“チワワ”という妙なあだ名は、何故だか今日から呼ばれることになり、英はすっかり意気消沈していた。

待たせてしまったのは自分だから、今更あだ名について、ああだこうだと言うつもりは英にはないのだが。


「‥‥なぁ、」

「何よ」

「‥何で、チワワなんだ?」


問題はそこではないのだが、とりあえず聞くだけ聞いてみる。

栖栗はくるりと振り向くと、英の目を指差して自信満々に


「チワワの目がでかいから!」


それ以外に何があるの、と怪訝そうに首を傾げる。

英はといえば、何だかショックを受けてしまい、その場で固まってしまっている。