「あ」


端から三つ目にある一年三組の教室。

そこには、見覚えのある人物が机に突っ伏していた。

そして、薄暗い教室の中にこっそりと侵入する。
栖栗が気がつかないところを見れば、どうやら寝ているらしかった。

授業が終わってから、もう二時間は待たせていた。

英は申し訳なく思いながらも、なるべく音を立てないように、栖栗の向かい側の席に座った。


「‥‥‥ほんとに寝てた」


まじまじと栖栗の寝顔を見つめる。

二重まぶたで睫毛が長く、ピンク色に色付いた頬は彼女をとても綺麗に見せる。
これでもう少し大人しかったら、可愛いというのに。


「‥‥‥」


無意識に手を伸ばしそうになり、英は慌ててそれを引っ込めた。


どうしてか、触れたくなる。


すぅすぅと寝息を立てている目の前の彼女に。


「‥ん、」


気配に気がついたのか、栖栗がうっすらと目を開けた。
すると、英は目を見開き、反射的に椅子から立ち上がった。



ガタ────ン!!!



椅子が床に倒れ、静かな教室に、そして廊下に響く。

栖栗が目を完全に開けた時には、英の顔は真っ青だった。