時計の針はもう六時を指していた。
辺りが薄暗いせいか、廊下を一人で歩くことに恐怖すら覚えてしまう。
しかし、そんなことにはお構いなしに、英は携帯電話の待ち受け画面(というか時計)と睨めっこしながら、足早に廊下を歩いていた。
何故かといえば、我が儘な飼い主様がヒステリックを起こし、自分を“チワワ”と呼ぶことを食い止める為に、だ。
それは、さしずめ、己のプライドをかけた時間との勝負だった。
だからといって、廊下走るわけにはいかない。
英は腐っても生徒会長なのだから。
「あっ!」
前方から、スクールバックを片手に歩いて来た少女は、英を見てぴたり、と立ち止まった。
スクールバックを持っていない方の手には、先程、生徒会会議で使った資料がある。
その資料をぎゅうっと握り締め、深呼吸を繰り返しながら、英が自分の目の前に来るのを待つ。
英はそんな少女に気がつくと、「お疲れ様」を言おうと口を開いた、が‥
「あのっ‥よろしければ、一緒に帰りませんか‥!」
そう言った少女に遮られた。
思わず出てしまった大きな声に、少女は顔を真っ赤にし、恥ずかしそうに俯いた。