教室の白い壁には、鉛筆で落書きがされていて、亀裂も走っている。
ベージュのカーテン、開け放たれた窓、チカチカと瞬く電球、カリカリと鳴るチョークとシャープペンシルの音、窓から見える汚い水が溜まった古びたプール、木々が生えっ放しの中庭‥
ここで、どう三年間過ごすというのだろう。
これでは、小学校や中学校のときと何も変わらない。
今までと同じ日々を、また繰り返し過ごしていくというのだろうか。
そんなの、時間の無駄としか思えない。
栖栗は目を閉じた。
瞼の裏に思い浮かぶのは、困った顔をして溜め息を吐く彼。
──ああ、そういえば、
触れてきた手は、酷く優しかった。
楽しいと思えた。
胸が高鳴った。
大声で笑いたくなった。
「早く、放課後にならないかな‥」
あの日、屋上に吹いた柔らかな風を、栖栗はまだ覚えていた。