一時間目の授業が始まって数分経過したころ、栖栗は横にいるメガネっ子─瞳(ひとみ)に視線を送った。

先ほど、彼女と少し会話をしたとき、何故だか楽しかったから、また何か話せればと思ったのだが。


「‥‥‥」


真剣にノートを取る瞳は栖栗の視線には全く気がつかないようで、黒板とノートに視線を行ったり来たりさせていた。


「‥‥‥」


栖栗はといえば、真っ白のノートにちょこちょこと英単語を書き込むだけ。
元々、栖栗は英語が嫌いだったから、やる気がないのは仕方がないことかもしれない。

栖栗は、瞳が一生懸命にシャープペンシルを走らせている光景を見つめた。
それは、あの日、受験に精を出していた自分と重なって、物悲しくなる。

掻き消すように首を横に振り、周りを見渡せば、今までの日常と変わらない光景が栖栗の目に映る。