「どうして、‥っ」


どうしてそこまで、自分にこだわるのか、やはり英にはよく分からなかった。

じんじんと痛む手は、段々と赤く腫れ上がってきた。
にも関わらず、栖栗は謝ることも、訳を言おうとも、どちらともしなかった。

きっと、そのせいだろう。

普段はあまり怒らない、寛大な英だが、段々と苛立ちを覚えてきたのは。


「‥オレは、君の犬には──‥」

「やだ」


その次の言葉を予期したのだろう。
英が言い終わる前にキッパリと栖栗は言い放った。

あまりにも、強気な栖栗の目に怯みそうになるものの、英はとうとう声を荒げた。


「やだ、じゃなくて!‥てゆうか最後まで話を聞け‥!!」

「うるさいっ!私はもうあなたをペットにするって決めたの!!誰にも逆らわせないわ!!」

「むちゃくちゃすぎるだろ‥いくらなんでも、っ‥」


英はそう言いかけて、思わず、口を閉じた。

俯いている栖栗の肩は微かに震えていて、何かに耐えるように唇をきゅっと噛み締めていた。

その姿が、どうしても泣いているように見えてならない。