暖かな春の風に誘われるかのように、校庭の桜はそのピンク色の羽を伸び伸びと広げていた。

校門に立て掛けられた長方形の木製の板には、墨で『入学式』と書かれていて。
新入生はこの日をどれだけ待ちわびてきたことだろう。

きっと春休みの間は、四月から始まる新たな生活に胸を踊らせていたに違いない。

にも関わらず、市川栖栗(いちかわすぐり)は盛大な溜め息を吐き、校門の前で仁王立ちしていた。
彼女の視線の先には、きゃあきゃあと騒ぐ新入生、そして今日からお世話になる学び舎がある。

どこにでもあるようなシンプルな濃紺のセーラー服に真っ黒な学生服、そして古びた校舎。


──‥全部、普通



その、どこにでもあるようなセーラー服を身に纏っている栖栗は、この新たな生活の幕開けに、さっそく、不満を覚えたのだった。