「綺麗ね。本当に綺麗。きっと死んでもあなたは綺麗なんでしょうね」
「あなたも綺麗ですよ。お嬢様……」
 少女の肩を引き寄せて、少年が耳元で告げる。
「逃げましょうか」
「いいの……?」
「母が亡くなりました。……金は必要ではなくなりましたから」
「泣いていたのはその所為?」
「ええ」
 にっこりと少女は微笑んだ。
「そうなのね。縛られる物が無くなるのは素敵な事よ」
「痛みを伴ってもですか」
「莫迦ね、判っていない」

 戸を開け放ち、月を背にして立つ少女のその姿は一振りの刃のようにすっきりとしていた。


「痛いから、素敵なのよ」


 名家の娘と使用人の逃避行とその末の情死が新聞を賑わすのはそれから三日後の事であった。