「あの、ね。……トシくんがね」
やっぱりトシくんかよっ
心ん中で思いっきり嫌になりながらも、美咲の声に耳を傾ける。
「どうしたんだよ、トシくんが」
「トシくん……彼女できたんだって」
は?
「彼女……?」
「うん。……昨日嬉しそうに言ってきた。
トシくん、全然あたしの気持ちなんか気付いてなかったみたいで、付き合うようになった経緯とか超細かく言ってきて……」
後半の美咲の話なんか無視して、俺は心ん中でこれでもかってほどのガッツポーズを決める。
……そして、一瞬緩んだ口元を元に戻して、何事もなかったかのように美咲を見る。
「……そりゃ残念だったな」
「うん。……あたし、いっつもこうだよ……
好きになったって全然うまくいかない。
誰もあたしの事なんか好きになってなんかくれない」
「……」
「もうやだ……」
沈んでいく美咲を目の前に、俺は何て声を掛けるべきか悩んでた。
いや、もうやだ、は俺の台詞だし。
それに誰も好きになってくれないって……どうする?
どうすんだよ、俺。
ここで言っとくべきか……それとも……
別に関係を急いでなんかいなかった。
かれこれ10年近くになるこの関係に、急ぐも何も今更あったもんじゃねぇし。
だけど……
もう、最近は美咲の恋愛話を聞くのがつらくなってた。
幸い、仕事を第一優先にしていた美咲は誰とも恋愛関係になる事はなかった。
友達の多い美咲は、休みの日は友達と遊ぶ事が多くて、合コンなんかもあまり行かない。
そんな美咲だからこそ、俺は今までこのポジションに我慢できてたんだと思う。
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