「ごめん! ちょっと遅れちゃった!!」


駆け寄ってくる美咲に、俺は小さなため息をつきながら視線を伏せた。


18時。

美咲の指定したこの店は、「居酒屋」っていう言葉よりは「ダイニングバー」とでも呼んだ方が正しいように見える。

しゃれた外観に、間接照明。


薄暗いオレンジ色に照らされた店内は、平日にも関わらず少し賑わいを見せていた。


「ここのお店ね、先月オープンしたばっかりなんだよ。

先週職場の同期と一緒に来たんだけど、感じいいから気に入っちゃって」


店員に案内された席に座りながら美咲が笑いかける。

ショートの髪に緩いパーマをかけた美咲の髪色はキャラメル色。

オフホワイトの腿丈のワンピースにジーンズ。


……多分、俺の為のオシャレではなくて、ただの仕事帰り。

別にいいけど。

いつもそうだし、今更気にもしねぇけど。……少し腹が立つだけで。


「何食べる?」


メニューを差し出す美咲に、俺はまた一つため息をつきながら口を開く。


「美咲の好きなもんでいいよ。

お薦めなの適当に頼んで」



さっきから尽きないため息は……多分、この後出されるであろう話題のせい。

美咲が片思いしてる、「トシくん」とかいう野郎のせい。



……マジで気が重いんですけど。




.