でもーーー

「………暴力で、人の"心"は解決しないから……」


力で一方的にねじ伏せるやり方は、最低な人間のすることだ。


だから、蓮見くんには、そんなことをしてほしくない。



「……ほんとうに」

ぽつり、彼がとても小さな声で言葉を落とした。


え?と聞き返そうと思ったけれど、その声が蓮見くんらしくなくて。思わず、いまどんな表情をしているのか、気になって見上げれば……。




ーーーーーなんだか、彼の方が、泣きそうに見えた。

そんな、弱った顔を見るのは初めてで………思わず、彼の頰に手を伸ばしていた。



その瞳が、揺ら揺らと不安げに揺れて………何かに怯えているようにも見えて。

とてもじゃないけど、さっきまで、あんな言葉を放っていた人と、同一人物とは思えない。


「別に大事伸ばしてたわけじゃないの。ただなんとなく切る機会を逃してて……髪も傷んでたし、玲子さんにこんなに綺麗にしてもらえたし、逆にラッキーだったかも」


彼の様子を伺いながら、笑顔でそう言った。

なんだか、彼が消えてしまいそうで。そんなに気にする必要はないんだと、伝えたくて。
本当に、私は、思ったより怖くなかったの。
それよりもずっとーーーーー彼が今まで守ってきた”王子様”の地位が壊れてしまう方が恐かった。



ゆっくりと、綺麗に縁取られた瞳が、私を見つめる。


ーーーー本当に綺麗な人だな。