「その願い、ダメだな」

プードルが私の願掛けにダメ出しをした。

「ど、どうしてよ!」

「君、その前にやることがあるもん」

「やることって?」

その時、砂場でクンクンと悲しげに鳴く犬がいた。皆掘る手を止めてその犬に注目した。

小さなウエストハイランドホワイトテリアだった。

ホワイトテリアは穴を掘る手を止め、茫然と自分の掘った穴を見つめていた。

実は私も家でホワイトテリアを飼っている。一人暮らしの私にとって彼はかけがえのない家族だった。

……て、あれ?あのワンちゃん、うちの子に良く似てるなあ。

「チック、どうした?」

プードルがホワイトテリアに声をかけた。チック!!それは私の犬の名前だ!


「もうダメだよ。僕の夢はでかすぎて掘り出せない」

チックは自分の穴を見て涙を流していた。


「チック?あなたチックでしょ?」

私がチックに声をかけると、チックは私の顔を見上げハッとした。

「怜奈ちゃん!」

「やっぱりチックだ!」

チックは私に気付くと、私に向かって走りだし、飛び付いてきた。柔らかい毛の感触が気持ちいい。私はチックの頭をなでた。


「チックは欲張りねえ。そんな掘り出せないほど大きなものを欲しがってるの?」

「うん。でもちょっと無理みたい」

「何が欲しいの?何だったら私が買ってあげるよ」

犬が欲しがる程度のものだ。きっと私に買って買えないものではないはずだ。

だけどチックは表情を曇らせてクンクンと鳴くだけだった。


「お金では買えないんだ」

チックは寂しげにそう言った。