「なんかゆったぁ
ぁッ塚ぁ、なんか中に入ろうとしたら〜…」

幸い王子の声はアスカ様に聞こえていなかったらしく、そのままアスカ様の独り言は続行される。

いいんだか悪いんだか。

「なんか門番のキモィ奴に『関係者以外入れんよ』とかゆわれてぇ〜で、ウチ、『セイヤのフィアンセでぇす』て言ったのねそしたらぁ、『嘘こくなこの不細工』って言われたのォまぁぢ何アィツクタバレてかぁ、アィツの方が糞キモィ的なぁ」

セイヤ王子は思わず吹き出しそうになったがなんとかこらえ、「あぁ、ドンマイ」と適当に返した。

緩む口元を手で隠し、ゴホンと咳払いをして誤魔化す。

国同士の世間帯というもののせいで、セイヤ王子には『不細工』など、口が裂けても本人の前では言えないことだ。

故に、今の話を聞いてなんだかスカッとした。

勇気ある門番に金一封でも送りたい気持ちだった。


そんな王子の内心にも気付かないまま、アスカ様はプンプンと愚痴を零し続ける。

頬が空気でプクッと膨らんだ顔は、なんとも言えない気持ち悪さだ。

「まぁぢ、ムカついた
でねぇ〜」

まだあんのかよ。
…てか、近すぎ。キモい。

アスカ様は王子のすぐ隣に、体を密着させるように座っている。

アスカ様が何か喋る度に彼女の長く鋭い顎が王子の腕を圧迫する。

「ウザイからぁ、吸収してやった
まぁぢ、ウケたぁ
でも、めっちゃキモかったぁ」