端の欠けたグラスに水を入れると、そこに可愛らしいピンクの花を挿し、それを古ぼけた小さな棚に置いた。
棚には日光で少し色褪せた写真が飾られている。
その写真には白い美しい馬と……優しく笑う青年が写っていた。
その笑顔は俺の胸を苦しい位に締めつける。
《……この方を死なせるわけにはいかない。……この方は……》
頭の中に遠い記憶の中の声が響き、それと同時に右肩の痣が鈍い痛みを放ち始めた。
右肩を強く押さえたまま、グッと唇を噛み締める。
……俺は……何のために……
「……どうかしましたか?」
急に声を掛けられビクッと身を竦めた。
そっと後ろを振り返ると、フライパンを片手にした男が首を傾げて俺を見つめている。
「……いや、なんでもないよ」
そう言ってヘラヘラと笑うと、もうすっかり慣れたボロボロの椅子に腰を下ろした。
男は暫く窺う様に俺を見ると「もうすぐ朝食ができるので、大人しく待っていて下さいね?」と、笑って朝食の支度に戻って行った。